センター長         

 1996年5月から東京大学に全国共同利用センター「大規模集積システム 設計教育研究センター」(VLSI Design and Education Center, VDEC)が設置 されました。このセンターは全国の国公私立大学と高専におけるVLSI (Very Large Scale Integration, 大規模集積回路)の設計教育の高度化と充実 を目指してVLSI技術の最新情報を全国に発信するとともに、各校における 実践教育のためのVLSIチップの試作を支援することを目的としています。

 VLSIは大型計算機やパーソナル・コンピュータの頭脳部であることは もちろん、家庭電器、通信、輸送、製造業、メディア、サービス業等あらゆる 分野において制御と情報処理の中枢を担い、現代の情報化社会に欠くことの できない存在です。わが国はVLSIの製造技術に関しては世界の第一線の 地位を占めていますが、その回路構成や基本設計のほとんどは、マイクロ プロセッサやマルチメディア用チップの例に見られるように、米国の生み出し たものが事実上の世界標準となっています。回路構成・基本設計のレベルでも わが国独自のものを出せるようになるためには、独創的なVLSIシステムを 発想し、その設計を完成させる技術者集団の育成が必要であり、大学等の責務 は重大であると言わなければなりません。

 このように創造的なVLSIの設計者を育成するのにもっとも有効なのは、 自分の設計したVLSIを実物のチップとして手に取り、その動作を自分で 検証できる環境を用意することです。しかし大学がVLSIの製造を一貫して 行う設備を持つことは経費や維持の点から難しく、また企業に試作を依頼すると しても個別の大学ごとに行ったのでは企業の大量生産方式との整合が悪く経費も かさむという難点がありました。

VLSIセンターによる教育・研究用VLSIチップの試作支援

 本センターの活動の一つは、この問題を解決するために複数の大学(高専を 含む)による別々のVLSIチップの設計を集め、図のように一枚のシリコン・ ウェーハの上に相乗りで配置した設計データにまとめて企業に試作を依頼し、 完成したチップを各大学ごとに切り分けて返送し教育・研究に活用してもらう、 という方式を実践することです。設計のためのソフトウェア・ツールも全国の 大学で利用できるようにする計画です。一方で本センターは、回路設計と製造 プロセスをつなぐライブラリ・データを全国大学の共通の知的資源として蓄積し、 また最新のVLSI技術に関する情報の発信基地となることに努めて、全国の VLSI設計教育のレベル・アップに資することをもう一つの目的としています。

 VLSI教育に関する全国センターの構想は、わが国でも1980年代に提案され 全国大学と産業界の支援のもとに検討されましたが、今回その趣旨を継承した 方々の努力と、関係省庁・産業界のご理解を得て、ようやくその一端が実現しました。 発足に先立つこれまでの2年間、各大学と企業のボランティア的な協力によって チップ試作の足慣らしをして参りましたが、今年度はセンターとして最初のテスト ランを行う準備を進めており、平成9年度(1997年)から本格運用に入る予定です。

 本センターが想定するユーザーはエレクトロニクスや情報学分野に限りません。 例えば素粒子物理学の計算に用いる専用チップの試作についてすでにお問い合わせ を受けたことがあります。今後全国共同利用センターとして多くの分野を対象とし、 VLSIを教育・研究にお使いになるすべての方々にお役に立ちたいと念じています。

 このセンターは人間に例えればようやく立って歩き始めたところです。今後センター が有効に機能していくためには関係省庁と産業界からの継続的な御支援が必要で ありますし、大学・高専の方々には子供の発育を見守る気持ちで、育て親としての ご参加と必要なご教示を頂きたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。

       1996年6月

                                センター長  鳳 紘一郎



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